SNSで知り合った相手から「月500万稼げる仕事がある」と誘われ、気づけば海外で監禁。カンボジア誘拐事件の25歳男逮捕というニュースに、ぞわっとした方も多いのではないでしょうか。なぜつくば市の23歳女性は遠い国まで送り込まれたのか。なぜ茨城県警はこの罪名で立件したのか。
このカンボジア誘拐事件25歳男逮捕の全容を、報じられた事実と公的資料をもとに丁寧にひも解きます。勧誘文言の中身、適用された罪名、被害女性の保護経緯、そして同じ誘いを受けたときに取るべき行動まで、順を追ってお伝えします。
事件の概要と逮捕に至った経緯とは?
茨城県警が発表した今回の事件は、SNSで始まった勧誘が海外への送り込みに発展した点が特徴です。容疑者・被害者・捜査体制を整理しておくと、後の罪名や手口の話がぐっと理解しやすくなります。
福岡市の25歳男が逮捕された日時と容疑
茨城県警が発表したのは2026年5月21日。逮捕そのものは前日の5月20日でした。逮捕されたのは福岡市中央区に住む無職の男性、25歳です。
容疑は2つあります。所在国外移送目的誘拐と職業安定法違反です。特殊詐欺の「かけ子」をさせる目的で女性を勧誘し、海外へ送り込んだ疑いが持たれています。県警は男を「リクルーター役」とみて調べを進めています。認否は明らかにされていません。
被害女性は茨城県つくば市の23歳無職女性
被害に遭ったのは茨城県つくば市に住む23歳の無職女性です。容疑者の男とはSNSを通じて知り合った関係でした。面識のない相手ではなく、オンライン上でやり取りを重ねていた知人という距離感です。
ここが今回の事件の怖いところでもあります。完全な見知らぬ相手ではなく、ある程度のやり取りを経た「知人」から誘いを受けている点です。警戒心が緩みやすい関係性が、そのまま犯行の入口になっていました。
茨城県警組織犯罪対策1課とつくば署の合同捜査
捜査を担当したのは茨城県警組織犯罪対策1課と県警つくば署の合同班です。通常の特殊詐欺事件とは異なり、海外を舞台にした人身移送が絡むため、組織犯罪対策セクションが前面に出ました。
被害女性がカンボジア当局に保護され、2025年10月に帰国してから本格的な裏付け捜査が進んだとみられます。帰国した被害者からの聴取が、リクルーター役の特定につながった構図です。
なぜ「初摘発」と報じられているのか?
ニュース見出しに「初摘発」とあるのを見て、引っかかった方もいるはずです。なぜ「初」なのか。茨城県警の捜査史と、トクリュウ事件への新しい立件手法という2つの角度から見ていきます。
茨城県警にとって所在国外移送目的誘拐の適用は初
報道によれば、匿名・流動型犯罪グループ(匿流/トクリュウ)による特殊詐欺事件で、茨城県警が所在国外移送目的誘拐容疑を適用したのは今回が初めてです。これまで同種の事件は職業安定法違反や詐欺幇助など別の罪名で立件されることが多くありました。
今回は罪名の組み合わせが変わりました。人を海外に送り込んで監禁状態に置く行為そのものを「誘拐」として切る判断です。捜査側の本気度がうかがえます。
匿流(トクリュウ)への新たな捜査アプローチ
警察庁は2023年7月、SNSを通じて緩やかに結びつき離合集散を繰り返す犯罪集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と定義しました。略して「匿流」「トクリュウ」と呼ばれます。
従来の暴力団とは違い、明確なリーダーや階層が見えづらいのが特徴です。捜査機関は中核人物までたどり着きにくい構造になっています。末端の実行役だけを捕まえても組織は再生してしまうため、リクルーター段階で重い罪名を適用する流れが強まりました。
海外拠点の特殊詐欺事件で警察が直面する壁
海外を拠点にした特殊詐欺の摘発には独特の難しさがあります。現地の法執行機関との連携、被害者の保護、証拠の確保。どれも国内事件とは比較にならない手間がかかります。
被害者が保護されて帰国するまで捜査が動かしにくい現実もあります。今回の事件は被害女性の証言を起点に国内リクルーターを摘発した先例として、今後の捜査モデルになる可能性があります。
「1カ月で500万稼げる」勧誘文言の中身とは?
事件を象徴するフレーズが「1カ月で500万稼いだ人もいる」です。ここに闇バイト勧誘の典型的な構造が凝縮されています。文言を分解して、何が危ない兆候なのかを見ていきましょう。
SNSで知り合った関係から始まったリクルート
容疑者と被害女性が出会ったのはSNSでした。最初から「詐欺の仕事をしないか」と切り出されたわけではありません。普通のやり取りを重ね、関係性ができたところで仕事の話が差し込まれる流れです。
警視庁の対策本部資料にも、似た構造が紹介されています。「利回りのいいアルバイト」と紹介され、納得して話に乗ってしまったというパターンです。仕事の中身ではなく、紹介者との関係性で判断してしまう心理が突かれています。
「電話オペレーターの仕事」という偽装表現
茨城新聞の報道によれば、勧誘時に使われた表現は「電話オペレーターの仕事がある」というものでした。コールセンター業務を装っている点がポイントです。
電話で人と話す仕事、と聞けば違法性を疑いにくくなります。実態は被害者へ嘘の電話をかける「かけ子」業務でしたが、入口では合法的な業種に見せかけられていました。仕事内容の曖昧さと業種偽装は赤信号の組み合わせです。
高額報酬を強調する闇バイトの典型パターン
「1カ月で500万円稼いだ人もいる」という表現にも特徴があります。「あなたが必ず稼げる」とは言っていません。「稼いだ人もいる」という伝聞調です。後から問題になっても言い逃れができる言い回しです。
警察庁の白書では、闇バイトの典型的な勧誘手口として以下の特徴が挙げられています。
| 特徴 | 具体例 |
|---|---|
| 報酬の異常な高さ | 月数百万円、即日現金など |
| 仕事内容の曖昧さ | 「書類を受け取るだけ」など詳細不明 |
| 個人情報の事前提出 | 運転免許証や顔写真の送信を要求 |
| 匿名性の高い通信手段 | テレグラムなどへの誘導 |
業務内容を明示せずに高額報酬だけを強調する勧誘は、ほぼ例外なく違法な仕事への入口と考えて差し支えありません。
被害女性がカンボジアへ送られた経路とは?
勧誘から実際の移送まで、どんな段取りで進んだのか。報道に基づいて時系列で追います。手口を知ることが、同じ罠を避ける最大の防御になります。
福岡・茨城での勧誘から共犯者への紹介
逮捕容疑によると、勧誘期間は2025年3月下旬から6月下旬ごろまでです。場所は福岡県や茨城県など。約3カ月かけてじっくり関係性を作り、勧誘を重ねていきました。
その後、容疑者は被害女性を特殊詐欺の実行役として「共犯者」に紹介しています。リクルーター役は最終的に被害者を別の組織メンバーに引き渡す役回りです。容疑者本人が現地まで連れて行ったわけではない点も、匿流組織の役割分担を表しています。
飛行機でベトナム経由カンボジア入国というルート
実際の移送は2025年7月下旬ごろから8月上旬にかけて行われました。経路は直行ではなく、飛行機でベトナムまで移動し、そこからカンボジアへ入国するルートです。
なぜ経由便なのか。直行便での出入国記録を避けたい意図が透けて見えます。第三国経由は、追跡をかわすための常套手段です。目的地のカンボジアへ直行しない時点で、すでに普通の渡航ではないと読み取れます。
短期間で高額を稼げる仕事という説明で誘い出し
移送時に被害女性へ伝えられた説明は「短期間で高額を稼げる仕事がある」というものでした。詐欺の実行役にする目的は最後まで隠されたままでした。
特殊詐欺に従事させる本当の狙いを伏せて連れ出した点が、誘拐罪の核心です。本人が同意したように見えても、判断材料を意図的に隠していれば「欺罔による誘拐」が成立します。表面上の同意は罪を消しません。
カンボジア国内で被害女性はどう扱われたのか?
現地でどんな状況に置かれたのか。報道で明らかになった範囲を整理します。「海外で働く」という勧誘の実態を直視することが、防御の第一歩です。
高層ビル内に監禁された生活
茨城県警によれば、被害女性はカンボジア国内の高層ビルに監禁されていました。自由に外出できる状態ではありません。観光地で見かける普通のオフィスビルが、実は犯罪拠点として使われているケースが報告されています。
警視庁の体験談紹介でも、空港から高級車で迎えられ、豪華なビルの一室に連れて行かれたという証言が公開されています。表向きは整った環境に見える分、最初は危険を察知しづらい構造です。
マニュアルを使ったかけ子の練習強要
監禁先では「マニュアル」が用意されていました。被害女性はそれを使ってかけ子の練習をさせられていました。セリフや受け答え方を覚えさせ、すぐに実戦投入できる体制が組まれていたわけです。
特殊詐欺は標的に応じて台本が変わります。オレオレ詐欺、還付金詐欺、投資詐欺。それぞれに応じたマニュアルが整備され、教育担当者もいる組織だった運用が見えてきます。
カンボジア当局による拠点摘発と保護
被害女性は2025年10月に帰国しました。きっかけは現地当局が拠点を摘発したことです。日本人の被害者は当局に保護され、その後日本に戻ることができました。
時事通信の報道によれば、東南アジア各地の特殊詐欺グループでは「かけ子」ら約50人が軟禁状態に置かれ、被害総額は30億円超に達した事案も確認されています。日本の捜査機関、大使館、現地当局の連携が救出を支えています。
適用された罪名「所在国外移送目的誘拐罪」とは?
聞き慣れない罪名が出てきました。刑法226条に規定されたこの罪は、海外での犯罪が増える中で重要度を増しています。条文と判例の両面から見ていきます。
刑法226条の条文と法定刑(2年以上の有期拘禁刑)
刑法226条は次のように定めています。「所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、2年以上の有期拘禁刑に処する」。
法定刑は2年以上の有期拘禁刑。下限が2年と高めに設定されている点が特徴です。通常の未成年者略取・誘拐罪より重い法定刑になっています。略取は暴行や脅迫を手段とするもの、誘拐は欺罔や誘惑を手段とするもの、と整理されています。
通常の誘拐罪より重く設定されている理由
なぜ重いのか。被害者が一度国外に出てしまうと、保護される機会が大きく失われるからです。言語の壁、法制度の違い、距離。どれも被害者の自力脱出を困難にします。
判例では、所在国外移送の目的が他の目的(営利目的など)と競合する場合、所在国外移送目的誘拐罪のみが成立するとされています。これは本罪の法定刑が他の誘拐罪より重いためです。国境を越える誘拐を特に重大視する立法判断が反映されています。
職業安定法違反が併せて適用された背景
今回の事件では職業安定法違反も同時に適用されました。職業安定法は労働者の募集や紹介に関するルールを定めた法律です。
特殊詐欺の実行役として人を募集・紹介する行為は、当然ながら適法な職業紹介にあたりません。犯罪の実行役を集めること自体が職業安定法違反となります。誘拐罪と職業安定法違反の二段構えで、リクルーター役の責任を重く問う組み立てです。
リクルーター役とは具体的に何をする立場か?
匿流の組織図には「リクルーター」という独特のポジションがあります。今回の容疑者がここに位置付けられたことには意味があります。
匿流の組織構造における末端と中核の中間役割
警視庁の資料によれば、匿流の組織図は次のような構造です。
| 階層 | 役割 |
|---|---|
| 首謀者 | ピラミッドの頂点、収益を吸い上げる中核 |
| 指示役 | 現場への指示と進行管理 |
| リクルーター | 実行役の勧誘・送り込み |
| 末端 | 実行役、下見役、道具調達役など |
リクルーターは末端と中核をつなぐ中間管理職のような立場です。人材供給という意味で組織存続の生命線を握っています。
SNS勧誘から海外送り込みまでの実務
リクルーターの実務は多岐にわたります。SNSでのターゲット選定、関係性構築、勧誘文言の発信、応募者の振り分け、共犯者への引き渡し。ひとりで完結する役回りとして設計されています。
経済的に困窮していたり、社会的に孤立していたりする若者が標的になりやすい傾向があります。SNS上の言動から「狙いやすい人」を選び出している実態が、警察庁の白書でも指摘されています。
報酬体系とマルチ・ねずみ講型への変質
近年、SNSでの闇バイト募集に対する取り締まりが強化されました。これを受けて、リクルート手法はマルチ・ねずみ講型へと変化しています。「ひとり連れてきたら報酬を増やす」という横展開型です。
知人関係を利用した勧誘が増えると、見ず知らずの相手から誘われる場合よりも警戒心が下がります。友人や知人からの誘いだからこそ、内容を冷静に判断する必要が出てきています。
同種事件の発生状況はどうなっているのか?
今回の茨城県の事件は単発ではありません。東南アジアを舞台にした日本人特殊詐欺事件は連続して報じられています。全体像を見ておきましょう。
カンボジア・ベトナムを拠点とする日本人詐欺グループの実態
時事通信が2025年4月に報じた事案では、準暴力団「関東連合」元メンバーがカンボジアとベトナムに複数の拠点を置く日本人特殊詐欺グループのトップとみられています。被害額は少なくとも30億円超。両国とタイを行き来する広域型でした。
このグループでは現地当局の協力を得て、海外から日本へ移送・逮捕された「かけ子」らは約50人に上ります。日本の警察庁、日本大使館、各国捜査当局の連携が摘発を可能にしました。
関東連合元メンバーが関与する被害30億円超の事案
このトップとされる人物は46歳。組織犯罪としての規模感が伝わる事件でした。今回の茨城県の事件と直接の関係は報じられていませんが、手口の構造は酷似しています。
SNSでの勧誘、第三国経由での移送、高層ビルでの監禁、マニュアル教育、ノルマ達成の強要。基本的な型は共通です。組織が違っても同じパターンが採用されている事実は、対策を考える上で重要な視点を与えてくれます。
ミャンマー・タイ国境の詐欺拠点との共通点
外務省は2025年2月、ミャンマー・タイ国境付近の詐欺拠点について注意喚起を出しています。オンラインゲームやSNSで知り合った相手から海外での仕事を紹介され、最終的にミャンマーの詐欺拠点に連れて行かれる事案が発生しているという内容です。
ノルマが達成できないと暴行を受ける事案も報告されています。少数民族武装組織が支配する地域では、現地当局の活動が及びにくいという構造的な問題が指摘されています。カンボジアだけの問題ではない広がりがあります。
外務省はカンボジア渡航にどんな注意喚起をしているか?
旅行や仕事で渡航を検討している方も読んでいるはずです。外務省海外安全ホームページの最新情報を確認しておきます。
カンボジア危険情報の最新レベル
外務省が2025年12月12日に更新したカンボジアの危険情報では、以下のように区分されています。
| 地域 | 危険レベル |
|---|---|
| タイとの国境付近(タイ国境から50km以内) | レベル3:渡航は止めてください |
| 上記以外の全土 | レベル1:十分注意してください |
タイとの国境付近では2025年に両国軍の衝突が発生し、対象範囲が拡大されました。国境近郊エリアは渡航中止勧告レベルです。
「好条件の仕事」勧誘に関する公式警告
カンボジアの危険情報には、特殊詐欺関連の警告が明記されています。「カンボジアで好条件の仕事があるとして勧誘された外国人が監禁状態に置かれ不法行為に強制的に従事させられる事案が発生しています」という記述です。
外務省は「就労のための渡航に際しては就労先の情報などを十分に確認してください」と呼びかけています。渡航前の段階で公式情報を確認する習慣が、被害を防ぐ第一歩です。
タイ国境付近で危険レベル3が出ている地域
タイ国境から50km以内の地域では、軍事衝突に加えて治安全般が不安定です。プレアビヒア州、ウドーミエンチェイ州、バンテアイミエンチェイ州、ポーサット州、バッタンバン州などで戦闘や空爆が報告されています。
カンボジア当局の統制が行き届きにくい地域は、犯罪組織の活動拠点にもなりやすい構造があります。地理的にリスクが集中している地域への渡航は、ビジネス目的でも慎重な判断が必要です。
SNSで「高額バイト」を持ちかけられたらどう対処すべきか?
ここからは読者自身の防御策です。具体的にどんな兆候を見たら警戒すればいいのか。判断基準を整理します。
仕事内容を明示しない高額報酬は赤信号
警察庁の白書では、闇バイトの特徴として「仕事の内容を明らかにせずに著しく高額な報酬の支払を示唆する」点が挙げられています。これは最も分かりやすい危険信号です。
正規の求人であれば、職種、業務内容、雇用条件、勤務先所在地が明示されます。「とにかく稼げる」「詳しい仕事は会ってから」という表現が出てきたら、応募前に立ち止まる判断が必要です。
個人情報の事前送信を求められた時の判断
匿流のリクルート手口で特に悪質なのが、応募者から運転免許証や顔写真を事前に送らせる行為です。送ってしまった後は、離脱しようとすると「家族にバラす」「写真を流す」などの脅迫を受けるパターンが確認されています。
個人情報の送信を求められた段階で関係を断つ判断が大切です。一度送ってしまうと、抜け出すハードルが急激に上がります。
家族・警察への早期相談が抜け出す唯一の道
「もう関わってしまったかもしれない」という段階でも、相談先はあります。警察相談専用窓口「#9110」、警視庁の匿名通報ダイヤル、外務省の領事サービスセンター。複数の窓口が用意されています。
家族への相談を躊躇する気持ちは分かります。ただ、海外に渡航してしまった後では、自力での脱出は極めて困難です。出発前の相談が最も有効な防御策になります。
不審な勧誘を受けた時に使える相談窓口とは?
実際の連絡先を具体的にまとめます。緊急時に検索する余裕はありません。事前に知っておくべき情報です。
警察相談専用窓口「#9110」の使い方
「#9110」は警察への相談専用ダイヤルです。110番ほど緊急性が高くないけれど、誰かに相談したいという場面で使えます。受付時間は基本的に平日昼間ですが、都道府県によって異なります。
「闇バイトかもしれない」「海外の仕事に誘われている」と感じた段階で利用できます。具体的な被害が出ていなくても相談は可能です。
外務省領事サービスセンターの連絡先
海外での仕事に関する不安は、外務省領事サービスセンターでも相談できます。電話番号は03-3580-3311。内線2902もしくは2903です。住所は東京都千代田区霞が関2-2-1。
海外渡航前に渡航先の安全情報を確認する手段として、外務省海外安全ホームページも公開されています。渡航先の最新リスクを公式情報で確認する習慣が、犯罪被害の予防に直結します。
在カンボジア日本国大使館への連絡方法
万が一カンボジア国内で危険を感じた場合、在カンボジア日本国大使館への連絡が命綱になります。同様に、在タイ日本国大使館、在ミャンマー日本国大使館にも領事窓口が設置されています。
外務省の海外安全ホームページには各国大使館の連絡先が掲載されています。渡航前にスマートフォンへ大使館連絡先を保存しておくだけでも、緊急時の対応力が大きく変わります。
今後の捜査と司法手続きで注目される点とは?
事件は逮捕で終わりではありません。送検、起訴、公判という流れが続きます。注目しておきたいポイントを整理しておきます。
容疑者の認否と共犯者特定の見通し
茨城県警は現時点で容疑者の認否を明らかにしていません。今後の取り調べで認否が示され、それを踏まえて共犯者の特定が進む見通しです。
匿流の事件では、リクルーター役の供述から指示役、さらに首謀者へと辿る捜査手法が取られます。「共犯者」とされる人物の身元解明が、組織全体の摘発につながる鍵になります。
カンボジア当局との国際連携の進展
被害女性を保護したのはカンボジア当局でした。日本側がどこまで現地と情報共有できるかが、追加摘発の鍵になります。
警察庁、外務省、各国捜査当局の三者連携は、東南アジア全域の特殊詐欺対策で実績を積み始めています。国境を越えた組織犯罪に対する国際捜査の枠組みが、少しずつ形になっています。
同種事件の追加摘発が続く可能性
今回の事件をきっかけに、類似事案の摘発が続く可能性があります。茨城県警が初めて適用した所在国外移送目的誘拐罪は、他県警でも参考にされる立件モデルになりそうです。
東南アジアを舞台にした特殊詐欺は、ここ数年で被害規模が急拡大しています。リクルーター段階で摘発する流れが定着すれば、組織への打撃は大きくなると見られています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 所在国外移送目的誘拐罪は通常の誘拐罪と何が違いますか?
所在国外移送目的誘拐罪は刑法226条に定められた罪で、法定刑は2年以上の有期拘禁刑です。通常の未成年者略取・誘拐罪より下限が重く設定されています。被害者を国外に連れ出すことで、国内法による保護が及びにくくなる重大性が反映されています。
判例では、他の目的(営利目的など)と競合する場合でも、所在国外移送目的誘拐罪のみが成立するとされています。海外への移送目的を特に重く扱う立法判断が背景にあります。
Q2. なぜカンボジアが特殊詐欺の拠点になりやすいのですか?
カンボジアは外国人の入国手続きが比較的容易で、現地当局の取り締まりが及びにくい地域もあるためとされています。特にタイとの国境付近では治安が不安定なエリアもあり、犯罪組織が拠点を構えやすい構造になっています。
外務省はカンボジアの危険情報で、「好条件の仕事があるとして勧誘された外国人が監禁状態に置かれ不法行為に強制的に従事させられる事案」を明記しています。公式に警告される段階まで問題が深刻化しています。
Q3. 「かけ子」とは具体的にどんな役割を指しますか?
「かけ子」は特殊詐欺で被害者に直接電話をかける実行役を指します。オレオレ詐欺なら息子や警察官を装い、還付金詐欺なら役所職員を装って嘘の説明を繰り返す立場です。
今回の事件では、被害女性が高層ビルに監禁され、用意されたマニュアルでかけ子の練習をさせられていました。組織側はマニュアルを整備し、教育担当を配置するなど、業務として運用していた実態が浮かんでいます。
Q4. 被害女性は罪に問われる可能性はありますか?
報道によれば、今回の被害女性はカンボジア当局に保護され、被害者として扱われています。詐欺の実行役にする目的を隠したまま誘い出されたという経緯から、誘拐の被害者という立ち位置です。
ただし、海外で「かけ子」として実際に犯行に関与していた場合、状況によって法的評価が分かれる事案もあります。本件で女性が捜査対象になっているという報道は出ていません。
Q5. 家族がSNSで海外バイトに誘われていたら何をすべきですか?
まずは家族と話し合う時間を作ることが第一歩です。仕事の具体的な内容、勤務先、雇用主、契約形態を確認するよう促してください。仕事内容が曖昧なまま高額報酬だけが提示されている場合は、ほぼ間違いなく違法な仕事への入口です。
不安が残る場合は警察相談専用窓口「#9110」、外務省領事サービスセンター(03-3580-3311)に相談できます。渡航前の段階での相談が最も効果的な防御策です。
まとめ
茨城県警が初めて適用した所在国外移送目的誘拐罪は、海外を舞台にした特殊詐欺事件への新しい立件アプローチを示しました。SNS上の知人関係から始まる勧誘、第三国経由での移送、現地ビルでの監禁、マニュアル教育。手口は分業化され、リクルーター役だけを摘発しても組織全体は残るという構造的な課題が浮き彫りになっています。
東南アジアの詐欺拠点を巡る情報は日々更新されています。タイ・ミャンマー国境、ラオス、フィリピンなど、舞台は広がりを見せています。今後はマネーロンダリングを担う口座ブローカーの実態解明や、SNS事業者と捜査機関の連携強化が論点になっていくはずです。気になるニュースを見たら、外務省海外安全ホームページや警察庁の最新発表を一度のぞいてみてください。情報を持っているかどうかが、自分と家族を守る分かれ目になります。
参考文献
- 「【更新】「1カ月で500万稼げる」 特殊詐欺目的で知人女性をカンボジアに誘拐 容疑で25歳男逮捕 茨城県警が初摘発」-「茨城新聞クロスアイ」
- 「カンボジアに女性誘拐疑い、茨城 詐欺従事目的か、男逮捕」-「共同通信/カナロコ by 神奈川新聞」
- 「東南アジア各地に拠点 「かけ子」ら50人、軟禁状態―特殊詐欺グループ、被害30億円超」-「時事ドットコム」
- 「カンボジアの危険情報【一部地域の危険レベル引き上げ】」-「外務省 海外安全ホームページ」
- 「ミャンマー・タイ国境付近の詐欺拠点に関する注意喚起」-「外務省 海外安全ホームページ」
- 「警視庁匿名・流動型犯罪グループ対策本部ホームページ」-「警視庁」
- 「第4項 匿名・流動型犯罪グループの動向と警察の取組」-「警察庁 令和5年版警察白書」
- 「刑法第226条(所在国外移送目的略取及び誘拐)の判例」-「note(TNF)」
- 「所在国外移送目的略取罪、所在国外移送目的誘拐罪」-「横浜ロード法律事務所」
- 「【栃木・強盗殺人事件】トクリュウの“実行役”募集方法「SNS」→「ねずみ講型」に?」-「ライブドアニュース」