「いつもお世話になっております。急で申し訳ないのですが、代わりに備品を立て替えで買ってもらえませんか?」もし、あなたの会社にこんな電話がかかってきたら、どうしますか?それは、新規の取引を装った、巧妙な代理購入詐欺の手口かもしれません。
最近、事業者をターゲットに、取引先を装って備品などの代理購入を持ちかける詐欺が急増しています。この記事では、その巧妙な手口と、なぜプロであるはずの事業者が騙されてしまうのか、その心理的な罠を解説します。被害に遭わないための具体的なチェックポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
あなたの会社も狙われる!取引先を装う代理購入詐欺とは?
「代理購入詐欺」と聞くと、個人間のトラブルや、SNSの怪しいバイトを思い浮かべるかもしれません。しかし今、その矛先は、真面目に事業を営む法人や個人事業主にも向けられています。まずは、その詐欺の全体像を掴みましょう。
そもそも「代理購入詐欺」とは、どんな詐欺なの?
代理購入詐欺とは、犯人が他人になりすまし、「あなたの代わりに商品やサービスを購入してほしい」と依頼し、その代金をだまし取る詐欺のことです。個人を狙うケースも多いですが、最近では、事業者間の取引を装う手口が目立っています。
犯人は、あなたに商品代金を振り込ませた後、連絡を絶ちます。もちろん、商品は届きませんし、立て替えたお金が返ってくることもありません。
なぜ事業者(法人・個人事業主)がターゲットになるの?
事業者が狙われる理由は、大きく2つあります。1つは、事業用の取引では、比較的高額なお金が動きやすいこと。個人間の取引よりも、一度にだまし取れる金額が大きくなる可能性があります。
もう1つは、「今後の取引を円滑に進めたい」という事業者の心理を利用しやすいことです。「この依頼を断ったら、今後の仕事に響くかもしれない」という気持ちが、冷静な判断を鈍らせてしまうのです。
実際の被害事例から学ぶ、その巧妙なシナリオ
実際に、東京都で起きた被害事例を見てみましょう。ある塗装業者に、実在する介護施設の職員を名乗る男から、仕事の依頼がありました。業者がこれを引き受けた後、男は「ミスで備品(消毒液)が発注できなくなった。代わりに買ってほしい」と代理購入を持ちかけます。
業者は、男から伝えられた消毒液の販売会社に連絡し、指定された口座に145万円を振り込みました。しかし、男から「もっと買ってほしい」と重ねて要求されたことで不審に思い、元の介護施設に確認したところ、仕事の依頼自体が存在しない、完全な詐欺だったことが発覚したのです。
代理購入詐欺は、どんな手口であなたを騙そうとするの?
この詐欺の手口は、非常によく練られたシナリオに基づいています。ただ「買ってほしい」と頼むのではなく、周到な準備であなたの警戒心を解き、断りにくい状況を作り出してきます。その典型的な3つのステップを解説します。
手口①:「仕事の発注」でまず信用させる
詐欺師は、いきなり代理購入の話はしません。まず、あなたの事業に関連する、もっともらしい仕事を発注してきます。実在する企業や公共施設を名乗り、具体的な仕事内容を提示してくるため、多くの事業者はこれを「新規のビジネスチャンス」だと信じてしまいます。
この段階で、あなたは相手を「新しい取引先」として認識し、信頼関係が生まれてしまいます。これが、最初の巧妙な罠です。
手口②:「ミスで買えない」と代理購入を依頼してくる
仕事の契約が成立し、あなたが安心したタイミングを見計らって、詐欺師は本題を切り出します。「こちらのミスで、必要な備品の発注が間に合わなくなった」「急いでいるが、会社のシステム上、今すぐ支払いができない」など、やむを得ない事情を装い、あなたに代理購入を依頼してきます。
「いつも使っている業者ではなく、指定の業者から買ってほしい」と言われるのも、この手口の大きな特徴です。
手口③:指定された偽の業者に支払いをさせる
詐欺師が指定してくる購入先の業者は、もちろん仲間が運営する偽の会社です。あなたは、新しい取引先を助けるつもりで、偽の業者に商品代金を振り込んでしまいます。
一度振り込むと、「在庫が足りないので、もっと高額な商品を買ってほしい」「手数料が別途必要になった」などと、次々と追加の支払いを要求してきます。ここで初めて、あなたはおかしいと気づくのです。
なぜ、怪しいと思っても断れないの?詐欺師が使う心理的な罠とは
「自分なら、そんな怪しい話には乗らない」と思うかもしれません。しかし、いざ当事者になると、多くの人が冷静な判断を失ってしまいます。それは、詐欺師が私たちの心理を巧みに操ってくるからです。
罠①:「今後の取引を失いたくない」という遠慮
一度「仕事の依頼」を受けてしまうと、相手との間に「取引関係」が生まれます。その状況でイレギュラーな依頼をされると、「これを断ったら、本筋の仕事もキャンセルされるかもしれない」という気持ちが働き、無下に断ることが難しくなります。この遠慮の気持ちが、詐欺師の思う壺なのです。
罠②:「困っているなら助けたい」という善意の悪用
「発注ミスで困っている」「急いでいる」などと言われると、「困っているなら、助けてあげたい」という善意が働くのが人情です。特に、真面目に仕事に取り組んでいる事業者ほど、この傾向は強いかもしれません。詐欺師は、あなたのその優しさや誠実さを、容赦なく悪用してきます。
罠③:「早くしないと」と冷静な判断をさせない焦り
「今日中に支払わないと、プロジェクトが止まってしまう」「今すぐでないと、在庫がなくなってしまう」など、詐欺師はとにかく決断を急がせ、あなたに考える時間を与えません。焦りを感じると、人は物事を深く考えたり、誰かに相談したりすることなく、言われるがままに行動してしまいがちです。
ここをチェック!代理購入詐欺を見破るためのポイントとは?
巧妙な代理購入詐欺ですが、必ずどこかに「ほころび」があります。怪しい依頼をされた時に、機械的に確認すべき3つのチェックポイントを紹介します。これを実践するだけで、被害に遭うリスクを劇的に減らせます。
ポイント①:依頼主の電話番号は、公式サイトのものと一致するか?
これが最も簡単で、最も効果的な確認方法です。相手が実在の企業名を名乗っているなら、電話を切った後、必ず自分でインターネット検索などをして、その企業の公式サイトに載っている代表電話番号にかけ直してください。そして、「先ほどお電話いただいた〇〇様はいらっしゃいますか?」と確認しましょう。詐欺の場合、担当者は存在しません。
ポイント②:振込先の口座名義は、購入先の会社名と一致するか?
振込を依頼されたら、指定された口座の名義を必ず確認してください。もし、購入先の会社名と全く違う個人名義や、別の会社名義になっていた場合、それは100%詐欺です。正規の取引で、振込先が取引相手の会社名と異なることは、通常あり得ません。
ポイント③:通常の取引とは異なる、不自然な依頼ではないか?
「なぜ、自社で買わずに、わざわざうちに頼むのだろう?」「なぜ、いつもと違う業者から買うように指定してくるのだろう?」といった、少しでも不自然な点を感じたら、それは危険なサインです。ビジネスの常識から考えて「おかしい」と感じる直感を、絶対に無視しないでください。
もし代理購入詐欺の被害に遭ってしまったら、どこに相談すればいい?
万が一、お金を振り込んでしまった後に「詐欺かもしれない」と気づいた場合。一番いけないのは、パニックになったり、自分を責めたりして、行動が遅れることです。被害を最小限に食い止めるため、すぐに以下の窓口に連絡してください。
相談先①:すぐに警察(#9110)へ被害届を出す
詐欺は、立派な犯罪です。気づいた時点ですぐに、最寄りの警察署に被害届を提出してください。どこに相談すればいいか分からない場合は、警察相談専用電話「#9110」に電話すれば、適切な窓口を案内してくれます。
相談先②:振込先の金融機関へ連絡する
警察への連絡と同時に、お金を振り込んでしまった金融機関(あなたの会社の取引銀行)に連絡し、詐欺被害に遭ったことを伝えてください。「振り込め詐欺救済法」に基づき、犯人の口座を凍結し、お金が残っていれば被害者に返還される可能性があります。
相談先③:企業法務に詳しい弁護士に相談する
被害額が大きい場合や、今後の法的な対応について相談したい場合は、企業法務や詐欺被害案件に詳しい弁護士に相談しましょう。犯人に対する損害賠償請求など、あなたに代わって法的な手続きを進めてくれます。
代理購入詐欺の被害を防ぐために、社内でできる対策とは?
被害に遭わないためには、経営者や担当者一人が気をつけるだけでなく、会社全体で防犯意識を高めることが重要です。今日からすぐに始められる、社内での対策を3つ紹介します。
対策①:イレギュラーな依頼は、必ず複数人で確認するルールを作る
担当者一人だけで判断させず、通常のフローと異なる依頼や、高額な支払いが発生する場合は、必ず上長や経理担当者など、複数人で情報を共有し、確認するという社内ルールを徹底しましょう。これにより、担当者が一人で抱え込み、冷静な判断を失うのを防げます。
対策②:取引先の情報は、必ず公式サイトや登記情報で再確認する
新規の取引先から連絡があった場合は、相手から聞いた情報だけを鵜呑みにせず、必ず自社でその会社の公式サイトや、国税庁の法人番号公表サイトなどで、実在する会社かどうかを再確認する癖をつけましょう。この一手間が、詐欺被害を防ぐ大きな盾となります。
対策③:少しでも不審なら、きっぱり断る勇気を持つ
「これを断ったら、今後の取引に響くかも…」という不安は、当然あると思います。しかし、あなたの会社を危険に晒してまで、受けるべき依頼ではありません。少しでも不審な点があれば、「社内規定で、代理購入はお受けできません」などと、きっぱりと断る勇気を持つことが、最終的にあなたの会社を守ります。
代理購入詐欺について、よくある質問
最後に、事業者向けの代理購入詐欺に関して、よくある質問とその答えをまとめました。いざという時に備えて、正しい知識を身につけておきましょう。
Q1. 既存の取引先を名乗る場合もある?
はい、あります。既存の取引先の担当者名をかたり、電話番号を偽装して連絡してくる、より巧妙な手口も報告されています。たとえ知っている取引先からの依頼であっても、代理購入のようなイレギュラーな話が出た場合は、一度電話を切り、あなたが知っている正規の連絡先にかけ直して確認することが重要です。
Q2. 少額の代理購入なら応じても大丈夫?
いいえ、金額の大小にかかわらず、応じるべきではありません。最初は数万円程度の少額な依頼で信用させ、後から「もっと高額なものを」と、被害が拡大するケースがほとんどです。少額であっても、詐欺の入り口であることに変わりはありません。
Q3. 支払ってしまったお金は取り返せる?
非常に困難ですが、可能性はゼロではありません。「振り込め詐欺救済法」により、犯人の口座に残高があれば、被害額に応じて分配される制度があります。そのためにも、被害に気づいたら、一刻も早く警察と金融機関に連絡することが何よりも大切です。
Q4. 従業員が騙されてしまった場合、会社の責任は?
会社の業務に関連して従業員が騙された場合、その損失は基本的に会社が負うことになります。だからこそ、従業員任せにせず、会社としてしっかりとしたチェック体制や、詐欺に関する情報共有の仕組みを整えておくことが、経営上の重要なリスクマネジメントになります。
Q5. 詐欺の電話やメールを受けたら、どう対応すればいい?
電話の場合は、相手の言うことを鵜呑みにせず、すぐに電話を切ってください。そして、必ず公式サイトなどで調べた正規の番号にかけ直して確認しましょう。メールの場合も、記載されている連絡先には絶対に連絡せず、公式サイトで事実確認を行ってください。
まとめ
事業者間の取引は、信頼関係の上に成り立っています。代理購入詐欺は、その信頼関係や、ビジネスチャンスを逃したくないという事業者の真面目な気持ちを悪用する、非常に悪質な犯罪です。しかし、その手口はパターン化しており、冷静に一つひとつ確認すれば、必ず見抜くことができます。
重要なのは、「仕事の依頼」という甘い言葉に惑わされず、その後の「代理購入」というイレギュラーな依頼に対して、常に警戒心を持つことです。「確認しますので、一旦お電話を切ります」この一言が、あなたの会社の大切な資産を守るための、最強の盾になります。日頃から社内で情報共有を徹底し、不審な依頼には組織として毅然と対応する体制を整えておきましょう。
参考文献リスト
- 「事業者間取引における詐欺的トラブルに注意!」 – 警察庁
- 「事業者の方へ」 – 国民生活センター
- 「取引先の偽装にご注意!」 – 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)