FBIが詐欺グループから大量の仮想通貨を押収しました。その額はおよそ1.2兆円です。米政府による仮想通貨の押収としては、これまでにない規模になりました。ニュースの見出しだけでは、何が起きたのか掴みにくいかもしれません。
この記事では、FBIによる1.2兆円の押収がどんな事件だったのかを整理します。誰が逮捕され、押収された仮想通貨はどこへ向かうのか。専門用語はかみくだいて、順番にほどいていきます。
FBIが押収した1.2兆円とは何か
FBIが押収した仮想通貨は、約80億ドルにのぼります。日本円にしておよそ1.2兆円です。なぜここまでの額になったのでしょうか。まずは押収された資産の中身と、発表のタイミングから見ていきます。数字の意味がわかると、事件の輪郭がはっきりします。
押収された127,000BTCの規模
押収の中心は、127,000枚を超えるビットコインでした。1枚あたりの価値は数百万円規模です。それが12万枚以上集まりました。合計でおよそ80億ドルになります。
この数字は、ひとつの企業や個人が持つ額としては桁違いです。押収されたビットコインは127,000枚超、価値は約1.2兆円です。詐欺で集めた資金が、そのまま仮想通貨で保管されていた点が特徴でした。現金ではなくビットコインだったため、まとめて確保できました。
「米政府史上最高額」と呼ばれる理由とは
米政府はこれまでも、犯罪に関わる仮想通貨を押収してきました。今回はその中で最大です。FBIは「政府史上最高の押収額」と位置づけています。
過去には2016年のビットフィネックス事件などで、大量のBTCが押収された例があります。それでも今回の1.2兆円は群を抜きます。1か所ではなく、複数の作戦を束ねた成果だった点も額を押し上げました。
いつ・どこで発表されたのか
公表されたのは2026年5月28日です。一連の摘発は「Operation Blackout」と名づけられました。アジア、中東、アフリカにまたがる捜査です。
発表ではFBI長官のカシュ・パテル氏がコメントを出しています。公表は2026年5月28日、作戦名はOperation Blackoutです。アメリカ人を狙う組織を追い続けるという姿勢を示しました。日本語ではCoinPostなどが報じています。
一斉摘発「Operation Blackout」とは
Operation Blackoutは、ひとつの事件ではありません。複数の捜査をまとめた呼び名です。逮捕者は約300人。保護された人もいます。ここでは作戦の全体像を、目的と結果の両面から見ていきます。
作戦の目的と摘発対象
狙いは「スキャムコンパウンド」と呼ばれる詐欺拠点です。建物にスタッフを集め、組織的に詐欺を行う施設を指します。多くはアメリカ人を標的にしていました。
対象はアジアや中東に広がります。標的は、アメリカ人を狙う国際的な詐欺拠点でした。国境をまたいで動く相手だったため、FBIは各国の警察と組みました。1国だけでは届かない相手だったからです。
逮捕された約300人の内訳
一連の摘発で、約300人が逮捕されました。そのうち6人はアメリカへ移送されています。連邦裁判で裁かれるためです。
逮捕者には、組織の幹部から末端のスタッフまで含まれます。トップだけでなく拠点全体を狙った点が今回の特徴です。資金と人の両方を押さえにいきました。
同時に保護された人身売買被害者
摘発では、約2,000人が保護されました。彼らは人身売買の被害者です。詐欺拠点で働かされていました。
詐欺をしていた人が、同時に被害者でもある。この二重構造が拠点の闇です。摘発で約2,000人の人身売買被害者が保護されました。だまされて連れてこられ、逃げられない状態に置かれていたとされます。
中心人物チェン・ジー(Chen Zhi)とは何者か
今回の押収の鍵を握るのが、チェン・ジーという人物です。カンボジアの大企業のトップでした。なぜ彼の逮捕で1.2兆円が押収されたのでしょうか。人物像と容疑を整理します。
プリンス・ホールディング・グループの概要
チェン・ジーは、プリンス・ホールディング・グループの創業者です。カンボジアを拠点とする複合企業です。年齢は37歳。別名はVincentとされています。
表向きは正規のビジネスを営んでいました。しかし米当局の見立ては違います。この企業が詐欺拠点の運営に関わっていたというものです。正規の事業と犯罪が同居していた構図です。
問われている連邦罪とは(ワイヤー詐欺・資金洗浄)
チェン・ジーには2つの容疑がかけられています。ワイヤー詐欺の共謀と、資金洗浄の共謀です。いずれも米連邦法の罪です。
ワイヤー詐欺は、通信を使った詐欺を指します。資金洗浄は、犯罪で得た金の出どころを隠す行為です。容疑はワイヤー詐欺の共謀と資金洗浄の共謀です。集めて、隠すという流れが問われています。
逮捕・訴追に至った経緯
米司法省は2025年10月、チェン・ジーを起訴しました。ニューヨークの連邦裁判所で起訴状が公開されています。舞台はカンボジアの強制労働型の詐欺拠点でした。
その後、押収と摘発が進みます。起訴から一連の作戦へと捜査が広がった形です。被害は米国内外に及んでいたとされます。
Operation Blackoutを構成する作戦とは
Operation Blackoutは、少なくとも4つの作戦で成り立っています。それぞれ場所も狙いも違います。ここでは主な作戦を整理します。表でまとめると、関係がつかみやすくなります。
| 作戦名 | 主な場所 | 主な成果 |
|---|---|---|
| Operation Zephyr Exodus | カンボジア | プリンス・グループ捜査、127,000BTC押収 |
| Operation Sand Dollar | UAE(ドバイ) | 275人逮捕、9拠点を摘発 |
| Operation Haochen | ミャンマー | 3,000万ドル相当を押収 |
| Shunda Compound Takedown | 複数国 | 合同チームによる拠点摘発 |
プリンス・グループ捜査「Operation Zephyr Exodus」
チェン・ジーの捜査は、Operation Zephyr Exodusと呼ばれます。今回の押収の中心です。彼の逮捕時に127,000BTCが押収されました。
この1件だけで、押収額の大半を占めます。1.2兆円の主役は、この作戦による押収です。プリンス・グループへの捜査が起点になりました。
UAEでの摘発「Operation Sand Dollar」
ドバイで行われたのがOperation Sand Dollarです。FBIと現地警察が動きました。逮捕者は275人。うち6人がアメリカへの移送対象です。
摘発された拠点は9か所でした。1拠点あたり年間600万ドルの詐欺収益を上げていたとされます。被害者の多くはアメリカ人でした。
ミャンマー拠点を狙った「Operation Haochen」
ミャンマーのチャウカット地区。ここを狙ったのがOperation Haochenです。タイ・チャンと呼ばれる詐欺拠点が対象でした。押収額は3,000万ドル相当です。
この地域は、ある武装組織の支配下にありました。民主カレン慈善軍(DKBA)です。中国系の犯罪組織とのつながりも指摘されています。
詐欺拠点(スキャムコンパウンド)とはどんな場所か
事件の鍵となるのが、詐欺拠点という存在です。聞き慣れない言葉かもしれません。どんな仕組みで、誰が働いているのか。手口と実態を、順を追って見ていきます。
「ピッグ・ブッチャリング」と呼ばれる手口の構造
詐欺の中心にあるのが「ピッグ・ブッチャリング」です。直訳すると「豚を太らせて出荷する」。時間をかけて信用させ、最後に大金を奪う手口です。
流れはおおむね決まっています。
- SNSやマッチングアプリで接触する
- 親しくなり、別のアプリへ誘導する
- 投資話を持ちかける
- 偽の取引サイトへ送金させる
手口の中心は、信用させてから奪うピッグ・ブッチャリングです。少しずつ信用を積ませてから刈り取るのが特徴です。
強制労働・人身売買の実態
詐欺をしているスタッフの多くは、自ら望んで来たわけではありません。仕事の募集を装って集められます。現地に着くと、パスポートを取り上げられます。
そこから先は強制労働です。ノルマを課され、逃げれば罰せられる環境だったとされます。だから保護された約2,000人が、被害者と呼ばれます。
東南アジアに拠点が集中する背景
こうした拠点は、東南アジアに多く見られます。法の目が届きにくい地域があるためです。武装組織が実効支配する場所もあります。
国境を越えると捜査は難しくなります。取り締まりの空白地帯が拠点を生みました。だから今回は、多国間の連携が必要でした。
スターリンク連携が果たした役割とは
今回の摘発では、民間企業も動きました。イーロン・マスク氏のスターリンクです。なぜ通信会社が捜査に関わったのでしょうか。果たした役割を、具体的に見ていきます。
端末位置情報の提供という協力
詐欺拠点では、衛星通信が使われていました。スターリンクの端末です。FBIはこの端末の位置情報に注目しました。
スターリンクは、捜査側にデータを提供しました。スターリンクは詐欺端末の位置情報を捜査に提供しました。どこで端末が使われているかが手がかりになりました。拠点の特定に役立った形です。
ミャンマーで停止された7,000台超の端末
協力はデータ提供にとどまりません。スターリンクは端末そのものを止めました。ミャンマー国内で7,000台以上が対象です。
通信を断てば、拠点は動けなくなります。詐欺のインフラを直接遮断したわけです。摘発と並行して効果を発揮しました。
民間企業が捜査に関与する意味
通信、決済、送金。詐欺は民間サービスの上で動きます。だから民間の協力が効きます。
今回はその一例でした。捜査機関だけでは届かない部分を、企業が補った形です。官と民の連携が問われる場面でした。
被害者を救う「Operation Level Up」とは
摘発は、犯人を捕まえるだけではありません。被害者を救う動きもありました。それがOperation Level Upです。どんな仕組みで、どれだけの被害を防いだのか。数字で見ていきます。
8,935人へ送られた被害通知
この作戦では、被害が疑われる人へ通知を送りました。対象は8,935人です。あなたは詐欺に遭っているかもしれない、と知らせる試みです。
通知を受けた人の多くは戸惑いました。通知を受けた8,935人のうち、77%が被害に気づいていませんでした。だまされている自覚すらなかったのです。
防いだ被害額5億6,200万ドルの内訳
通知の効果は数字に表れています。防げた被害額は5億6,200万ドルです。送金を止めた分の合計になります。
早く知らせるほど、被害は小さく抑えられます。気づく前に止めるのが狙いでした。先回りの通知が功を奏した形です。
被害に気づいていなかった被害者の割合
なぜ多くの人が気づけなかったのでしょうか。理由は手口の進め方にあります。相手は時間をかけて信頼を築きます。だから疑いが芽生えにくいのです。
偽の取引画面では、利益が出ているように見えます。順調だと思い込まされるのです。引き出そうとして、初めて異変に気づきます。その時には手遅れになっています。
押収された1.2兆円の仮想通貨はどうなるのか
押収された1.2兆円の仮想通貨。この行方が気になる方は多いはずです。国のものになるのか、被害者へ戻るのか。没収の流れと、過去の例から見ていきます。
米政府による没収(フォーフィチャー)の流れ
押収と没収は別物です。押収は一時的に確保すること。没収は最終的に国のものにすることです。間には裁判の手続きが入ります。
流れはおおまかに次のとおりです。
- 捜査で資産を押収する
- 裁判所が没収を判断する
- 没収が確定する
- 政府が管理・処分する
押収と没収は別の段階で、確定には裁判の手続きが必要です。確定までには時間がかかる点に注意が必要です。
過去に押収されたBTCの扱いとの違い
米政府は過去にも大量のBTCを押収しています。一部は競売で売却されてきました。今回はその規模が桁違いです。
量が多いほど、市場への配慮も必要になります。まとめて売れば価格を動かしかねないからです。扱い方は慎重になると見られます。
仮想通貨市場への影響をめぐる見方
1.2兆円分のビットコイン。これが市場に出れば影響は避けられません。だから売却の有無は注目されています。
ただし、すぐに売られるとは限りません。保有を続ける選択肢もあります。見方は分かれている段階です。
なぜ被害・押収額の推定が大きく食い違うのか
ニュースを見ると、金額がいくつも出てきます。80億ドル、150億ドル、75億ドル。なぜ数字がそろわないのでしょうか。混乱しやすい部分を、ひとつずつ整理します。
約80億ドルと150億ドルの差が生まれる理由
押収額は約80億ドルとされます。一方で、最大150億ドルという試算もあります。どちらも同じビットコインの話です。
差を生むのは時価の変動です。金額の差は、計算する時点のビットコイン価格の違いによります。いつの価格で計算するかで額が変わります。
| 数字 | 内容 |
|---|---|
| 約80億ドル | 押収額のおおよその評価 |
| 最大150億ドル | 押収時点での試算額 |
| 75億ドル超 | IC3が集計した被害総額 |
| 約1.2兆円 | 約80億ドルの円換算 |
IC3が集計した被害総額との関係
75億ドルという数字も出てきます。これは押収額ではありません。FBIの窓口に寄せられた被害の合計です。
窓口の名前はIC3。インターネット犯罪の苦情を受け付けます。2025年は約72,000件の苦情が、捜査の端緒になりました。押収額とは別の指標です。
実被害が統計を上回るとされる根拠
FBIは、実際の被害はもっと多いと見ています。なぜなら、届け出ない人がいるからです。
恥ずかしさや諦めで、報告しない被害者もいます。表に出る数字は全体のごく一部という見立てです。だから統計は下限と考えられます。
今回の摘発が示す国際捜査の変化とは
1.2兆円の押収は、額だけが注目点ではありません。捜査のやり方にも変化が見えます。国境や官民の壁を越えた連携です。その意味を整理します。
多国間で連携する捜査の枠組み
今回はFBIだけの手柄ではありません。各国の警察が動きました。ドバイ、ミャンマーなど現場はさまざまです。
犯罪が国境をまたぐなら、捜査もまたぐ必要があります。国境を越える犯罪に、多国間の連携で対抗した点が特徴です。1国では追い切れない相手だったからです。
中国系犯罪組織・DKBAとの関連
拠点の背後には、組織の影があります。中国系の犯罪組織との関連が指摘されています。ミャンマーの拠点はDKBAの支配地域にありました。
DKBAは武装組織です。米当局は国際的な犯罪組織に指定しています。国家ではない勢力が拠点を守っていた構図です。
米財務省の制裁措置との連動
動いたのはFBIや司法省だけではありません。米財務省も関わっています。プリンス・グループ関連への制裁です。
制裁は資産を凍結する手段です。捜査と制裁を合わせて資金を断つ狙いがあります。複数の機関が連動しました。
よくある質問(FAQ)
ここからは、読者が気になりやすい点をまとめます。押収された1.2兆円の行方や、被害の範囲などです。短く要点だけお答えします。
押収された1.2兆円は被害者へ返還される?
可能性はありますが、確約はありません。没収が確定したあとに、返還の手続きが検討されます。
ただし被害者の特定や立証が必要です。全額がすぐ戻るとは限らないのが実情です。
チェン・ジーは現在どうなっている?
チェン・ジーは連邦罪で訴追されています。容疑はワイヤー詐欺と資金洗浄の共謀です。
今後は裁判で争われます。有罪かどうかは司法の判断を待つ段階です。
日本人にも被害は及んでいる?
今回の標的は、主にアメリカ人とされます。ただし手口は世界共通です。
SNSや投資話を使う詐欺は、日本でも起きています。他人事とは言い切れない手口です。
「米政府史上最高額」は今後も覆らない?
現時点では最高額です。今後さらに大きな押収があれば更新されます。
捜査は続いています。記録が動く可能性は残ると見ておくのが無難です。
Operation Blackoutの捜査は今後も続く?
FBIは、ほかの拠点の摘発も進めていると説明しています。作戦は1回で終わりではありません。
アジアやアフリカにも対象が残るとされます。追加の発表があり得る段階です。
まとめ:1.2兆円押収事件が問いかけるもの
FBIによる1.2兆円の押収は、額の大きさだけが話ではありません。詐欺拠点という仕組みと、そこで働かされる人の存在が見えてきました。犯人と被害者が同じ場所にいる。この二重構造が、事件の核心です。仮想通貨で集めて隠す流れも、今回ではっきり示されました。
気になる点があれば、一次情報をたどるのが近道です。FBIのIC3レポートや、米司法省の発表が公開されています。英語ですが、数字や名称をそのまま確認できます。まずはこの記事の参考文献から、1つ開いてみてください。元の資料に当たると、報道ごとの数字の違いも腑に落ちます。
参考文献
- 「Chairman of Prince Group Indicted for Operating Cambodian Forced Labor Scam Compounds Engaged in Cryptocurrency Fraud Schemes」- U.S. Department of Justice
- 「FBI seizes record-setting $8 billion in cryptocurrency amid intercontinental ‘scam compound’ crackdown」- Fox News
- 「FBI、詐欺拠点摘発で1.2兆円相当の仮想通貨を押収 米政府史上最高額」- CoinPost
- 「Internet Crime Report(IC3)」- FBI Internet Crime Complaint Center
- 「FBI Seizes $8B in Crypto in Largest U.S. Forfeiture Ever」- BanklessTimes