詐欺の手口

公募に便乗した事業譲渡詐欺とは?3.5億円事件の手口と防止策

公募に便乗した事業譲渡詐欺とは?3.5億円事件の手口と防止策 詐欺の手口

会社を譲り受けたい。その思いにつけ込む事業譲渡詐欺が、実際に起きました。舞台になったのは、医療法人が出した公募の情報です。譲渡先を探す公募に、別の人物が仲介役を装って割り込みました。買い手の会社は、3億5000万円を振り込みました。

なぜ公募が狙われたのでしょうか。どうすれば気づけたのでしょうか。この記事では、事業譲渡詐欺の手口を順番にほどいていきます。買い手を守るための見抜き方も、あわせてお伝えします。

  1. 公募の事実を利用した事業譲渡詐欺事件とは?
    1. 事件の概要と発表のあらまし
    2. だまし取られた金額と被害企業
    3. 逮捕された容疑者と捜査機関
  2. なぜ医療法人の事業譲渡が狙われたのか?
    1. 民事再生手続き中の公募という背景
    2. 許認可ビジネスの参入障壁の高さ
    3. 譲渡を急ぐ買い手側の心理
  3. 詐欺グループが使った手口とは?
    1. 仲介役を装って接近する方法
    2. 「資金証明が必要」という口実
    3. 偽の振込書類画像を送る偽装
  4. だまし取られた3億5000万円はどこへ消えた?
    1. クレジットカード支払いへの流用
    2. 本来の譲渡資金には未使用だった事実
    3. 資金の流れから見える計画性
  5. 被害が5億円超に膨らんだとされる理由とは?
    1. 残金名目での追加請求
    2. 段階的に要求する心理的な手口
    3. 不審に気づき発覚したきっかけ
  6. 公募情報はなぜ悪用されやすいのか?
    1. 誰でも閲覧できる公開情報という性質
    2. 第三者がなりすましやすい構造
    3. 買い手が見落としやすい確認の盲点
  7. 事業譲渡・M&A詐欺によくある手口とは?
    1. 仲介者へのなりすまし
    2. 保証金・手付金名目での要求
    3. 虚偽の進捗報告による引き延ばし
  8. 正規のM&A取引と詐欺的取引の違いとは?
    1. お金の振込先と資金の流れ
    2. 契約書と専門家の関与の有無
    3. エスクローなど安全な決済の仕組み
  9. 事業譲渡詐欺を見抜くポイントとは?
    1. 振込先の名義を必ず確認する
    2. 書類は画像でなく原本で確認する
    3. 直接連絡で事実を裏取りする
  10. 詐欺被害に遭わないための対策とは?
    1. 弁護士・M&A専門家への事前相談
    2. 公式窓口での事実確認
    3. 契約前のデューデリジェンスの徹底
  11. 万が一だまされたときの相談先とは?
    1. 警察・警察相談専用電話への連絡
    2. 弁護士や公的な相談機関
    3. 早期相談が回収につながる理由
  12. よくある質問(FAQ)
    1. この事件の容疑者は容疑を認めているのですか?
    2. 事業譲渡の公募情報は誰でも見られるのですか?
    3. 中小企業や個人事業主も狙われることはありますか?
    4. だまし取られたお金は取り戻せるのですか?
    5. 医療法人のM&Aは安全に行えるのですか?
  13. まとめ
    1. 参考文献

公募の事実を利用した事業譲渡詐欺事件とは?

まずは、何が起きたのかを整理します。経営が傾いた医療法人が、譲渡先を公の場で募りました。その公募に、無関係の人物が割り込んだのです。仲介役のふりをして、買い手から大金を引き出しました。事件の輪郭を、3つの角度から見ていきます。

事件の概要と発表のあらまし

警視庁捜査2課が、2026年6月19日までに2人を逮捕しました。容疑は詐欺です。きっかけは、千葉県の医療法人が出した公募でした。この法人は経営が悪化していました。東京地方裁判所に、民事再生法の適用を申請していたのです。

民事再生とは、会社を立て直すための手続きです。事業を続けながら、借金を整理していきます。その一環で、事業の譲渡先を公募していました。この「譲渡先を探している」という事実が、詐欺に利用されました。公開された情報が、悪用の入り口になったわけです。

だまし取られた金額と被害企業

だまし取られたとされる金額は、3億5000万円です。狙われたのは、大阪市の衣料品輸入販売会社でした。報道によれば、その会社の代表が直接やり取りをしていたとされます。医療の世界へ新しく参入したい、という意向があったとみられます。

被害はそれだけにとどまりません。捜査2課は、さらに1億7000万円を要求した疑いも調べています。両方を合わせると、被害は5億円を超える可能性があります。ただし、この追加分はまだ捜査中の段階です。確定した金額ではない点に注意してください。

逮捕された容疑者と捜査機関

逮捕されたのは、小林昌人容疑者(54)と古野間昭彦容疑者(59)です。報道では、住所や職業がはっきりしない人物として伝えられています。捜査を担当しているのは、警視庁の捜査2課です。捜査2課は、知能犯と呼ばれる詐欺や横領を扱う部署です。

2人は詐欺グループとして動いていたとみられています。現時点では逮捕の段階です。有罪が確定したわけではありません。容疑者の認否については、捜査機関が調べを進めている状況です。続報によって、内容が変わる可能性もあります。

なぜ医療法人の事業譲渡が狙われたのか?

数ある業種の中で、なぜ医療法人だったのでしょうか。ここには、いくつかの理由が重なっています。手続きの特殊さ、参入のしにくさ、そして買い手の焦り。3つの背景がそろうと、詐欺師にとって都合のよい状況が生まれます。順に見ていきましょう。

民事再生手続き中の公募という背景

民事再生の最中は、事業の譲渡が進みやすい時期です。立て直しのために、譲り先を急いで探すことがあります。その募集は、関係者の目に触れる形で公にされます。つまり、買いたい人が集まりやすい状態になっています。

ここに死角があります。公募の情報は、本物の関係者以外も見ることができます。誰が反応してきたのか、買い手側からは判別しにくいのです。仲介役を名乗る人物が現れても、すぐには疑いにくくなります。この「混ざりやすさ」が狙われました。

許認可ビジネスの参入障壁の高さ

医療の事業には、許認可の壁があります。新しく一から立ち上げるのは簡単ではありません。手続きにも時間がかかります。だからこそ、すでにある法人を譲り受ける道に魅力を感じる人がいます。時間を買う、という発想です。

この心理が、詐欺の土台になります。「ゼロから作るより、譲り受けたほうが早い」という気持ちです。早く参入したい買い手ほど、話に乗りやすくなります。詐欺師は、その焦りを見越して近づいてきます。参入のしにくさが、皮肉にもすきを生みました。

譲渡を急ぐ買い手側の心理

譲渡の話には、競争がつきものです。ほかにも買いたい人がいるかもしれません。そう思うと、買い手は先を急ぎたくなります。「早く手を挙げないと取られる」という焦りです。この感覚は、冷静な確認をにぶらせます。

詐欺師は、この焦りをあおります。「今すぐ資金を用意してほしい」と急かすのです。急かされると、人は立ち止まって考えにくくなります。急ぎを求められたときこそ、いったん手を止める。この姿勢が、身を守る第一歩になります。

詐欺グループが使った手口とは?

ここからは、具体的な手口を見ていきます。やり方は、意外と単純な組み合わせでした。役になりすまし、もっともらしい理由をつけ、偽の証拠を見せる。この3点が軸です。1つずつ分解すると、引っかかる仕組みが見えてきます。

仲介役を装って接近する方法

2人は、仲介役を装って買い手に近づいたとされています。仲介役とは、売り手と買い手をつなぐ立場です。この役を名乗れば、間に立っても不自然ではありません。お金や書類のやり取りを引き受けても、怪しまれにくくなります。

ここがポイントです。仲介役を名乗るだけで、お金の流れの真ん中に立てます。買い手は、相手を正規の窓口だと思い込みます。本来の売り手と直接話す機会が、減ってしまうのです。間に入る人物こそ、確認すべき相手でした。

「資金証明が必要」という口実

2人は、買い手にこう持ちかけたとされます。「事業譲渡を受けるには、資金があるか証明する必要がある」。一見、もっともらしい説明です。大きな取引では、支払い能力を確かめる場面も実際にあります。だからこそ、信じてしまいやすいのです。

しかし、証明の方法がおかしいのです。本当の資金証明なら、お金を相手に渡す必要はありません。残高を示す書類で足ります。なのに、この件では現金の振込を求められました。「証明のために振り込む」という流れ自体が、不自然なサインでした。

偽の振込書類画像を送る偽装

買い手を安心させる仕掛けもありました。受け取ったお金を、医療法人側の口座に振り込んだ。そう装う書類の画像を送っていたとされます。画像を見れば、お金が正しく流れたように感じます。これで買い手は、取引が進んでいると思い込みました。

ここに落とし穴があります。画像は、いくらでも作り変えられます。振込が本当にあったかどうかは、画像では確かめられません。証拠のように見えても、証拠にはなっていないのです。書類は原本で確かめる。この基本が抜けていました。

だまし取られた3億5000万円はどこへ消えた?

振り込まれた3億5000万円は、どう使われたのでしょうか。本来なら、譲渡の手続きに回るはずのお金です。ところが、まったく別の場所へ流れていました。お金の行き先を追うと、計画的な詐欺の輪郭が浮かびます。

クレジットカード支払いへの流用

捜査2課によれば、お金はカードの支払いなどに充てられていたとされます。事業とは関係のない使い道です。譲渡のために預かったはずのお金が、個人の決済に消えていきました。預かり金という建前は、最初から守られていなかったのです。

ここから見えることがあります。集めた目的と、使った目的がまるで違いました。お金を譲渡資金として使う気は、もともと薄かったとみられます。預けた側からすれば、想定外の使われ方です。流用の事実が、悪意のあらわれと言えます。

本来の譲渡資金には未使用だった事実

肝心の譲渡資金には、お金が使われていませんでした。医療法人への支払いに回っていないのです。つまり、取引は前に進んでいませんでした。書類の画像で「進んでいるように見せていた」だけだったわけです。

ここで、先ほどの偽画像がつながります。進捗の演出と、資金の流用は一続きの作業でした。進んでいるふりをしながら、裏でお金を使う。この2つが同時に行われていたのです。表と裏の落差が、詐欺の核心でした。

資金の流れから見える計画性

お金の流れをたどると、行き当たりばったりではないと分かります。役を作り、理由を用意し、証拠を偽る。その上で、お金を別の用途に回す。手順が組み立てられています。思いつきの犯行とは考えにくい流れです。

計画性は、被害の大きさにも表れています。1度で終わらず、追加の請求にまで及んだ疑いがあります。段階を踏んで金額を引き上げていったとみられます。お金の使い道と請求の重ね方に、設計の跡が見えるのです。

被害が5億円超に膨らんだとされる理由とは?

最初の3億5000万円で終わりではありませんでした。さらに上乗せの請求があったとされています。なぜ被害はふくらんだのでしょうか。そして、どこで止まったのでしょうか。被害が拡大した流れと、発覚の瞬間を見ていきます。

残金名目での追加請求

2024年3月下旬、2人はさらに持ちかけたとされます。「譲渡のために、残金を払う必要がある」。この口実で、追加の1億7000万円を求めた疑いがあります。残金という言葉は、取引の続きを思わせます。だから、買い手は応じやすくなります。

ここに、追加請求の巧妙さがあります。一度払うと、次の請求を断りにくくなります。すでに大金を入れているからです。引き返すと、これまでの支払いが無駄になる気がします。その心理が、さらなる支払いを引き出しました。

段階的に要求する心理的な手口

詐欺は、はじめから全額を求めないことがあります。少しずつ、段階を踏んで請求します。最初の支払いで、相手は「もう関わってしまった」と感じます。その状態だと、次の要求も受け入れやすくなります。

これは、後戻りしにくい心理を突く手口です。払った分を取り戻したい気持ちが、判断をゆがめます。冷静なら断る話でも、続きだと思うと応じてしまいます。段階的な請求は、この弱点を利用しています。金額が大きくなるほど、抜け出しにくくなるのです。

不審に気づき発覚したきっかけ

最終的に、買い手側が異変に気づきました。話がいつまでも前に進まなかったからです。譲渡の手続きが、実際には動いていませんでした。おかしいと感じた買い手が、警察に相談しました。これが発覚の入り口になりました。

ここに、大事な教訓があります。違和感を相談につなげたことが、事件を表に出しました。もし気づいても黙っていたら、被害はさらに広がったかもしれません。早めに第三者へ持ち込む。その判断が、被害の連鎖を止めました。

公募情報はなぜ悪用されやすいのか?

今回のかなめは、公募という公開情報でした。誰でも見られる情報が、詐欺の足場になったのです。便利な仕組みが、なぜ悪用されてしまうのでしょうか。公開情報が持つ性質を、3つの面から考えます。

誰でも閲覧できる公開情報という性質

公募は、広く知ってもらうために公開されます。多くの買い手に届くほど、譲渡先は見つかりやすくなります。これは本来、よい仕組みです。ところが、見られる相手を選べません。買いたい人にも、悪意のある人にも届きます。

ここに、もろさがあります。公開とは、誰の目にも触れるということです。詐欺師も同じ情報を手に入れられます。「この法人が譲渡を探している」と分かれば、話の材料になります。公開された事実が、なりすましの台本になりました。

第三者がなりすましやすい構造

公募では、買い手と売り手が初対面のことが多いです。お互いをよく知りません。そこへ第三者が「仲介役です」と現れます。初対面どうしの間だと、その肩書きを確かめにくいのです。素性を知る手がかりが、もともと少ないからです。

この構造が、なりすましを許します。間に立つ人物の正体を、買い手は確認しづらい立場にあります。本物の売り手に直接たずねれば分かります。けれど、仲介役が間をふさいでいると、その機会が奪われます。確認の経路が断たれてしまうのです。

買い手が見落としやすい確認の盲点

買い手は、譲渡の中身に意識が向きがちです。事業の価値や、参入のうまみに注目します。その分、相手が本物かという確認が後回しになります。お金の振込先が正しいか、という点も見落とされやすいのです。

ここが盲点です。「何を買うか」に気を取られ、「誰と取引するか」が抜けます。取引相手の確認は、地味で面倒な作業です。だからこそ飛ばされやすいのです。盲点を埋めるには、相手の正体を最初に確かめる習慣が要ります。

事業譲渡・M&A詐欺によくある手口とは?

今回のような詐欺は、形を変えて繰り返されます。M&Aや事業譲渡を装う詐欺には、共通のパターンがあります。手口を知っておけば、似た話が来たときに気づけます。代表的な3つの型を見ておきましょう。

仲介者へのなりすまし

最も多いのが、仲介者へのなりすましです。間に立つ役を演じ、お金や情報を握ります。仲介という立場は、もっともらしく見えます。だから、警戒されにくいのです。今回の事件も、この型に当てはまります。

防ぐ鍵は、相手の確認です。仲介を名乗る人物ほど、素性をていねいに確かめます。所属する会社や、登録の有無を調べます。本物の売り手にも、直接たずねます。なりすましは、確認の徹底に弱いのです。

保証金・手付金名目での要求

「保証金が必要」「手付金を入れてほしい」。こうした名目で、先にお金を求める手口もあります。取引を進めるための費用に見えます。もっともらしい理由がつくと、人は応じやすくなります。今回の「資金証明」も、似た発想です。

注意したい点があります。お金を先に渡す理由が、取引の本筋からずれていないか。正規の取引でも、費用が発生する場面はあります。けれど、流れが不自然なら立ち止まります。「なぜ今、その名目で払うのか」を問い直すことが大切です。

虚偽の進捗報告による引き延ばし

詐欺は、進んでいるふりで時間をかせぎます。偽の書類や報告で、取引が動いているように見せます。買い手は安心して、追加の支払いに応じます。今回の偽画像も、この引き延ばしの一部でした。

ここで効くのが、客観的な確認です。進捗は、相手の報告ではなく公的な記録で確かめます。登記の状況や、口座の入出金を自分で確認します。報告だけを信じないことです。引き延ばしは、独自の裏取りに弱いのです。

正規のM&A取引と詐欺的取引の違いとは?

詐欺を見分けるには、正しい取引の形を知ることが近道です。本物のM&Aには、決まった流れと仕組みがあります。詐欺は、その仕組みのどこかを省きます。両者を並べると、違いがはっきりします。表でも整理します。

お金の振込先と資金の流れ

正規の取引では、お金の流れが透明です。振込先は、契約に基づいた正式な口座です。誰の口座に、何のために振り込むのか。これがはっきりしています。流れをたどれば、説明がつきます。

詐欺は、ここがあいまいです。仲介役の個人口座にお金が向かうのは、危険なサインです。本来は、売り手や決済の仕組みを通すはずだからです。振込先の名義が、取引の相手と一致しているか。ここを必ず確かめます。

契約書と専門家の関与の有無

本物の取引には、契約書があります。弁護士や、M&Aの専門家が関わります。条件が文書になり、第三者の目が入ります。これにより、勝手な変更や言い逃れがしにくくなります。安全装置が働くのです。

詐欺は、この関与をきらいます。口頭の説明や、画像の書類だけで進めようとします。専門家を入れると、不自然さが見抜かれるからです。下の表で、両者の違いを整理します。

確認の観点 正規の取引 詐欺的な取引
振込先 契約に基づく正式な口座 仲介役の個人口座など
契約書 文書で取り交わす 口頭や画像で済ませる
専門家 弁護士などが関与 関与をいやがる
進捗確認 公的な記録でたどれる 相手の報告に頼る
支払いの名目 取引の流れと一致 名目が不自然

エスクローなど安全な決済の仕組み

大きな取引では、安全な決済の仕組みがあります。その1つがエスクローです。これは、第三者がお金を一時的に預かる方式です。条件が満たされてから、お金が相手に渡ります。途中で持ち逃げされにくくなります。

詐欺は、こうした仕組みを通しません。相手に直接、しかも先に振り込ませようとします。安全な決済を提案すると、話をはぐらかすこともあります。決済の仕組みを聞いたときの反応も、判断の材料になります。

事業譲渡詐欺を見抜くポイントとは?

ここまでの手口を踏まえ、見抜き方をまとめます。難しい知識は要りません。確かめるべき点は、ほぼ決まっています。3つの確認を習慣にすれば、多くの詐欺を防げます。順に見ていきましょう。

振込先の名義を必ず確認する

最初の確認は、振込先の名義です。お金を振り込む前に、口座の名義を見ます。取引の相手と、名義が一致しているか。仲介役の個人名になっていないか。ここを確かめるだけで、危険の多くは見えてきます。

名義が合わないときは、立ち止まります。「なぜこの名義なのか」を、相手に説明してもらいます。納得できる答えがなければ、振り込みません。お金を出す直前が、最後の確認の機会です。ここを逃さないことが肝心です。

書類は画像でなく原本で確認する

次の確認は、書類の扱いです。画像や写真だけで信じないことです。今回の事件でも、偽の振込書類の画像が使われました。画像は加工できます。証拠としては弱いのです。

大事な書類は、原本で確かめます。口座の入出金は、自分の取引明細で確認します。相手から送られた画像ではなく、自分で取れる記録を見ます。第三者の機関に問い合わせるのも有効です。出どころのはっきりした情報を頼ります。

直接連絡で事実を裏取りする

最後の確認は、直接の裏取りです。仲介役の言葉だけを信じません。本物の売り手に、自分から連絡します。「こういう話を聞いていますが、事実ですか」とたずねます。間に立つ人物を通さず、確かめるのです。

連絡のときは、こんな文面が使えます。

お世話になっております。
御社の事業譲渡について、仲介の方からご連絡をいただいております。
内容の確認のため、いくつか教えてください。

1. 仲介をお願いされている方のお名前と会社名
2. お振り込み先として指定されている口座の名義
3. 現在の手続きの進み具合

お手数をおかけしますが、ご返信をお待ちしております。

このような確認を、おかしいと感じる相手は要注意です。正規の取引なら、裏取りを歓迎します。確認をいやがる反応こそ、危険のサインです。

詐欺被害に遭わないための対策とは?

見抜く力に加えて、守りの仕組みも整えておきます。1人で抱えず、専門家や公的な窓口を使うことです。事前の備えがあれば、危ない話を早めにはじけます。3つの対策を紹介します。

弁護士・M&A専門家への事前相談

大きな取引は、専門家に相談してから進めます。弁護士や、M&Aの支援機関が頼りになります。契約の中身や、お金の流れを見てもらえます。素人では気づけない不自然さを、指摘してくれます。

費用はかかりますが、保険のようなものです。数億円の取引なら、専門家への相談は安い投資です。第三者の目が入るだけで、詐欺は近づきにくくなります。相談先がいることが、安心につながります。

公式窓口での事実確認

相手の言葉は、公式の窓口で裏を取ります。中小企業庁は、M&Aの支援機関を登録する制度を設けています。登録された機関かどうかを確かめられます。公的な情報と照らせば、なりすましを見破りやすくなります。

確認は、自分の手で行います。相手が用意した連絡先ではなく、公式サイトの窓口を使います。詐欺師は、偽の連絡先を渡すこともあるからです。出どころを自分で選ぶことが、確認の前提になります。

契約前のデューデリジェンスの徹底

デューデリジェンスとは、取引前の調査のことです。相手の会社や、取引の中身を細かく調べます。手間はかかりますが、欠かせない工程です。ここを省くと、詐欺の入り込むすきが生まれます。

調べる対象は、相手の素性にも及びます。「何を買うか」だけでなく「誰と取引するか」を調べます。会社の登記や、担当者の実在を確かめます。地道な調査が、最大の防御になります。急ぐ取引ほど、ここを丁寧に行います。

万が一だまされたときの相談先とは?

それでも被害に遭ってしまうことはあります。大切なのは、その後の動き方です。早く動くほど、できることが増えます。どこに相談すればよいのかを、知っておきましょう。

警察・警察相談専用電話への連絡

詐欺の疑いがあれば、警察に相談します。緊急でないときは、警察相談専用電話の#9110が使えます。状況を伝え、どう動くべきか助言を受けられます。今回の事件も、買い手の相談が発覚につながりました。

ためらわずに連絡することが大切です。相談が早いほど、被害の拡大を止めやすくなります。追加の請求が来ても、応じる前に相談します。1人で判断せず、まず専門の窓口へつなぎます。

弁護士や公的な相談機関

法律の面では、弁護士が力になります。お金を取り戻す手立てや、今後の対応を相談できます。費用が心配なときは、公的な相談機関もあります。法テラスのような窓口で、はじめの相談ができます。

専門家に話すと、頭の中が整理されます。何が起きたのかを、順を追って説明できるようになります。証拠の集め方も教えてもらえます。1人で悩むより、状況が前に進みます。早めに専門家へつなぐことです。

早期相談が回収につながる理由

お金の回収は、時間との勝負です。だまし取られたお金は、すぐに使われたり、移されたりします。動きが早いほど、お金が残っている可能性が高まります。だから、相談は1日でも早いほうがよいのです。

口座の凍結など、打てる手もあります。早い相談が、回収の可能性を少しでも広げます。遅れるほど、お金は遠ざかります。気づいた時点で、すぐ動く。これが回収への近道です。

よくある質問(FAQ)

記事で触れきれなかった疑問に、短く答えます。事件の細かい点や、自分に関わる不安に絞りました。確認の参考にしてください。

この事件の容疑者は容疑を認めているのですか?

容疑者の認否は、捜査機関が調べている段階です。報道では、はっきりとは伝えられていません。逮捕は、有罪が確定したことを意味しません。今後の捜査や続報で、内容が明らかになっていきます。

事業譲渡の公募情報は誰でも見られるのですか?

公募は、買い手を広く募るために公開されます。多くの人の目に触れる前提です。便利な仕組みですが、悪意のある人にも届きます。今回は、その公開された事実が悪用されました。

中小企業や個人事業主も狙われることはありますか?

狙われる可能性はあります。事業譲渡やM&Aを装う詐欺は、規模を選びません。むしろ、専門家がそばにいない小さな取引のほうが、すきを突かれやすい面もあります。確認の習慣は、規模に関わらず必要です。

だまし取られたお金は取り戻せるのですか?

取り戻せるかは、状況によって変わります。早く動くほど、可能性は高まります。お金が残っているうちに、警察や弁護士に相談することが大切です。時間がたつほど、回収は難しくなります。

医療法人のM&Aは安全に行えるのですか?

正しい手順を踏めば、医療法人のM&Aも行えます。危ないのは、確認を省いた取引です。専門家を入れ、相手と振込先を確かめれば、リスクは下げられます。仕組みそのものが危険なわけではありません。

まとめ

今回の事業譲渡詐欺は、公開された公募の情報から始まりました。仲介役を装い、資金証明を口実にし、偽の画像で安心させる。手口は、確認を1つずつ飛ばさせる作りでした。逆に言えば、振込先の名義、書類の原本、相手への直接連絡。この3つを確かめるだけで、多くは防げます。守りの基本は、地味な確認の積み重ねです。

最後に、一歩進んだ備えにも触れておきます。中小企業庁は、M&Aを安心して進めるための支援機関登録制度を設けています。取引の前に、登録された機関かどうかを調べる習慣が役立ちます。今日できることは、相談できる専門家や公的窓口を、あらかじめ調べておくことです。連絡先を手元に置いておくだけで、いざというとき動きが早くなります。

参考文献

  • 「事業譲渡装い詐取容疑 男2人逮捕、被害5億円超か―警視庁」-「時事ドットコム」
  • 「医療法人の事業譲渡めぐり3億5000万円詐取疑いで逮捕 警視庁」-「NHKニュース」
  • 「医療法人事業巡り詐欺疑い 3億5000万円、男2人逮捕」-「MEDIFAX web」
  • 「公募の事実利用し3億円以上詐取か 詐欺グループの男2人を逮捕」-「テレビ朝日(ANN)」
  • 「中小M&Aガイドライン」-「中小企業庁」
  • 「特殊詐欺・投資詐欺対策」-「警視庁」